主に公認会計士の受験者層向けに、元監査法人職員が監査手続を事細かに説明するシリーズです。
今回は超基本かつ超重要監査手続である実査・立会・確認の中から、立会についてご説明します。
なお、実査編、確認編については以下の記事をご覧ください。
立会の目的は棚卸資産の実在性と在庫管理の内部統制をチェックすること
ではまずお勉強です。
立会とは監査対象会社(以下クライアント)の実施する実地棚卸に立ち会って、実地棚卸が会社で定められた手順に沿って適切に行われているかということや、帳簿に計上されている棚卸資産の額に相当する現物在庫が実際に存在することを確かめる手続きです。
監査論的に言うと、棚卸資産の実在性と、在庫管理が適切に行われているかどうかという内部統制の観点を2つ同時にチェックする手続きです。
立会が棚卸資産の実在性を確かめるための強力な手続であるということについては、当たり前のこととして知られているのですが、在庫管理の内部統制が適切に整備・運用されているかということが重要な観点だということは意識されていないことがありますので要注意です。
新人が立会に行ってきて、「テストカウントしてきました!」だけで終わってしまうと、先輩や主査から、「で、在庫の管理状況どんな感じやった?」と聞かれてアブブブブとなりますからね。
立会の監査計画を立てる(先輩がね)
監査は監査計画から始まります。
基本的に監査計画で予定されていない手続は実施されません。
監査計画の基本的な考え方については、”実査”の記事で説明していますので、そちらをご覧ください。
では、具体的な実地棚卸立会の監査計画の策定についてご説明します。
棚卸立会の場合、対象となる勘定科目をどれにするかということが論点になるケースはほとんどありません。
なぜなら、棚卸立会という時点で、対象となる勘定科目は棚卸資産、つまり原材料、仕掛品、半製品、製品、商品、貯蔵品といったところに限定されているからです。
では計画策定では何を考えないといけないかというと、主に立会を実施した在庫金額のカバー率です。
具体的に説明します。
クライアントの貸借対照表上の棚卸資産合計額は10億円で、内訳は以下の通り
- 本社敷地内 :0.5億円
- 自社工場内 :4億円
- 自社倉庫 :3億円
- 西日本営業所:1億円
- 東日本営業所:1億円
- A外部倉庫 :0.1億円
- B外部倉庫 :0.1億円
- C外部倉庫 :0.1億円
- D外部倉庫 :0.1億円
- E外部倉庫 :0.1億円
すべての在庫拠点の棚卸に立ち会いたいのはやまやまなのですが、金額の小さいところまで全部回るとなると、リスクアプローチの観点から非効率なので、いくつかに絞って立会の計画を立てます。
上記の場合だと例えば、
といったような感じで計画を立案します。
ちなみにこれで、カバー率は85%です。これを良しとするか不足とするかはプロフェッショナルジャッジメントです。
もっと100%に近づけるという判断もあり得るでしょうし、もっと低くてもよいという判断もあり得ます。
さて、これで立会の往査拠点が決まりました。
立会日について
時間を進めまして3月31日です。
決算日が3月31日だとすると、実地棚卸は決算日かその翌日に実施する会社が多いです。
なぜなら、3月31日に工場の稼働を止めて棚卸をすることで、期末日現在の棚卸資産残高をビタッと抑えることができるからです。
ですが、在庫の物量が多くて、棚卸後の事務処理が決算の締日に間に合わないような会社の場合、10日とか1ヶ月前倒しで実施することもあります。
ちなみに、棚卸は昼間に実施するとは限りません。
クライアントによっては、できる限り工場を止める時間を短くしたいので、夜中とか早朝に実施するケースも結構あります。
非日常です。ワクワクしますね。
事前準備はしっかりと!
では、改めまして、あなたは本社から新幹線の距離にある工場(行ったこと無し)の立会担当者にアサイン(指名)されました。
事前準備をしっかりしておかないと当日アワワワワとなりますので、要注意ですよ。
まず前期に先輩が作った調書を読み込んで、去年はどんな発見事項や留意事項があったのかを必ず確かめておきます。
例えば、効率よく回らないと時間切れで工場が動き出してしまうだとか、現場でもらわなければいけない資料をもらい損ねて後で担当者にゴメーンしないといけなくなるとか、です。
それと、実査でも同様でしたが、当日やらないといけないことをガチガチにリストアップしておきましょう。いわゆる手続書ですね。
あとは新幹線の切符を確認して、クリップボードと調書用紙をかばんに入れて、あと工場によってはヒール禁止とか、上履き持参とかもありますから、女子は注意ですよ!
では、ワクワクして当日を迎えましょう。
立会当日の動き
それではいよいよ立会当日です。
時間に余裕のある新幹線に乗っていざ工場に参りましょう。
工場についたら、ひとまず会議室に通されて、工場の責任者と棚卸の担当者とご挨拶です。
そして、世間話を終えたら立会スケジュールの確認をします。
複数のグループに分かれて工場を回る場合は、自分がどこを回るのか、誰についていくのかしっかり確認しておきましょう。
現場の下見
次に、現場の下見です。
棚卸が今まさに進んでいる現場を一通りぐるっと案内してもらって、どんな在庫がどれくらいの量あるのか、どのような保管状況なのか、実地棚卸の進め方や進み具合に問題が無いかチェックしておきましょう。
棚卸は、現場の担当者による1回目の全件カウント、現場の担当者以外の者による2回目の全件カウント、経理部や他部署の役職者などの検査員による3回目のサンプルカウントといった形で、複数回のカウントが実施されます。
そして、会計士がついて回るのはここで言う3回目のカウントであることが多いです。
つまり、会計士が回る時にはすでに全点数のカウントは終わっていて、役職者と一緒に”ほんとにちゃんと数えられてるかなー???”という目線で回ることになります。
ちなみに会計士が一緒に回る役職者は、本社の監査役とか経理部長だったりするケースもありますので、会社のことを色々聞いて、会社理解を深める良いチャンスですよ。
立会本番!
下見が終わって会議室に戻り、時間が来たら担当者の人が呼びに来てくれます。
世間話をしながら立会現場に赴き、一緒に現場を回る人達にご挨拶します。
一緒に回るメンバーは多くの場合、実際に全件カウントした現場の担当者、検査員、経理部からの立会人みたいな構成で、そこに監査人として混ぜてもらうことになります。
たまに自分のことを監査に来ている会計士として認識してくれていないケースがあって、こいつ誰やねん的な扱いを受けることがありますので、ちゃんと挨拶の時に自己主張しておきましょうね。
ではいよいよ現場を回ります。
基本的には検査員の動きについていくことになりますが、検査員の目線と監査人の目線は必ずしも一致するわけではないので、ある程度ちょこまか自由に動いて大丈夫です。
さて、立会で監査人がやらないといけないことは何だったでしょうか。
テストカウントだけじゃないですよ。
“棚卸そのものが適切に行われているか”を見るのが超大事です。
テストカウントは所詮、何千何万点もあるアイテムから数点数えるだけですので、全体観として、棚卸の遂行状況におかしなところがないかという目線で見て回らなければなりません。
例えば以下のような視点です。(もちろん下見の時にも見ておきます)
- 固定資産や消耗品、他社からの預り品などの棚卸除外品について、除外品であることが一目で見てわかるように区分されているか
- カウントしやすいように整理整頓は行き届いているか
- カウント漏れは無いか
- 現場担当者に疑問点を質問した時に、すぐに明快な答えが返ってくるか(現場担当者が現場のことをしっかりと把握しているかどうか)
- 雨ざらしや埃がかぶっていて、どうみても陳腐化しているようなものはないか
- などなどなど
このような視点を持ちつつ、要所要所で必要な件数をテストカウントしましょう。
時には未開封の段ボール箱を開けてもらったり、高い場所にある木箱をフォークリフトで降ろしてもらったりも有りです。
ただし、検査員に置いて行かれないように手際よく動きましょう。
1つのエリアを回り終わったら、次のエリア、また次のエリアと自分の担当エリアを順々に回ります。
そして、すべてのエリアを回り終えたら、一緒に回っていた人達全員が集まってご挨拶です。
ここで会計士として、総評コメントを求められることもありますので、褒め7割、気づき事項3割ぐらいでしゃべることを考えておきましょう。
まとめ作業
以上で、いわゆる立会そのものは終了です。
後は調書まとめですね。
テストカウントの結果、気づき事項、やり残しが無いかのチェックです。
テストカウントの結果とはどういうことかというと、現場で実際に監査人が数えてきたアイテムの詳細を調書に残しておくことを指します。
なぜ残しておかないといけないかというと、テストカウント結果は後日、在庫表(=期末棚卸資産の明細表)が完成してから、その在庫表にちゃーんと記載されているかどうか、つまり帳簿と実際のカウント結果が整合していることを確かめる必要があるからです。
気づき事項はそのまんまですね。
このまとめ作業は立会の現場でやってしまうこともありますし、新幹線の時間が迫っていて帰らなければならず、あとから事務所でやる場合もあります。
おわりに
さぁ、これで長い一日が終わりました。
いや、もしかしたら夜中に立会していて、終わったのが朝かもしれませんね。
立会は1年にそう何回も何回も経験する手続きではなく、現場も初めての場所だったりしますので緊張もしますが、やり残しが生じないように事前準備をしっかりとして挑みましょう。
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