【受験生と新人必読】元監査法人職員が実査・立会・確認を具体的に説明する【確認編】

監査
この記事は約10分で読めます。

主に公認会計士の受験者層向けに、元監査法人職員が監査手続を事細かに説明するシリーズです。

今回は超基本かつ超重要監査手続である実査・立会・確認の中から、”確認”についてご説明します。

なお、実査編、立会編については以下の記事をご覧ください。

【受験生と新人必読】元監査法人職員が実査・立会・確認を具体的に説明する【実査編】
主に公認会計士の受験者層と監査法人の新人職員向けに、元監査法人職員が監査手続を事細かに説明するシリーズです。今回は超基本かつ超重要監査手続である実査・立会・確認より、実査についてご説明します。
【受験生と新人必読】元監査法人職員が実査・立会・確認を具体的に説明する【立会編】
主に公認会計士の受験者層向けに、元監査法人職員が監査手続を事細かに説明するシリーズです。今回は超基本かつ超重要監査手続である実査・立会・確認の中から、立会についてご説明します。
スポンサーリンク
スポンサーリンク

確認の目的はクライアントではない第三者に、”証言”をもらうことです

ではまず恒例のお勉強です。

確認とは、監査対象会社(以下クライアント)の財務諸表に関する情報について、クライアント外部から回答を得ることで、その財務諸表に関する情報の正しさを立証する手続きを言います。

会計監査を実施するにあたっては、勘定残高をはじめとした多くの情報に大きな間違いが無いことを一つ一つ潰していくわけですが、クライアントが「大丈夫です!間違ってません!」と言っていても信憑性は無いので、クライアントから独立した第三者に、「クライアントはこんなこと言ってますけど、ほんまですかね?」と文書で聞いてみます。

そして、その第三者が「うん、あってるよ!」と回答してくれれば、「独立した第三者が大丈夫って言ってくれてるんだから大丈夫やろ」という判断ができるわけですね。

逆に「いや、それ間違ってるで!」と回答してきたら、クライアントに「この人、間違ってるって言うてはりますけど、どないです?」と詰め寄ることができます。

というわけで、確認は監査手続の中でも、特定の財務情報に対する超強力な証拠を得ることができるという意味で、非常に重要な手続として据えられています。

ちなみに、その監査上の重要性により、日本公認会計士協会は、監査実務の指針を記した一連の監査基準員会報告書(監基報)の中で、『監査基準員会報告書505 確認』という、確認手続だけで独立した一本の報告書を用意しています。実査と立会にはありません。

参考までに、監基報上の確認の定義も載せておきます。

4-5-(1)
「確認」-紙媒体、電子媒体又はその他の媒体により、監査人が確認の相手先である第三者(確認回答者)から文書による回答を直接入手する監査手続をいう。
※これ以降”確認手続を実施する”ということを、便宜上”確認状を送る”という言葉で表現しますのでご了承ください。

確認の監査計画を立てる(先輩がですよ)

監査は監査計画から始まります。

基本的に監査計画で予め決めてあることだけが粛々と実行されます。

監査計画の基本的な考え方については、”実査”の記事で説明していますので、そちらをご覧ください。

【受験生と新人必読】元監査法人職員が実査・立会・確認を具体的に説明する【実査編】
主に公認会計士の受験者層と監査法人の新人職員向けに、元監査法人職員が監査手続を事細かに説明するシリーズです。今回は超基本かつ超重要監査手続である実査・立会・確認より、実査についてご説明します。

では確認に関する具体的な監査計画の策定についてご説明します。

確認の対象とする勘定科目

まず初めにごく一般的なクライアントの財務諸表監査において、確認状を送る対象になりやすい勘定科目と主な確認先を例示します。

勘定科目 主な確認先
預金(普通預金、当座預金、定期預金等の各種預金) 銀行
保護預け有価証券 証券会社
売掛金(未収入金を含む) 得意先
買掛金(未払金を含む) 仕入先
外部倉庫に預けている在庫 倉庫会社、下請会社
借入金 銀行
退職給付債務 生命保険会社、証券会社
偶発債務 クライアントの顧問弁護士

こんなところでしょうか。

基本的には貸借対照表の勘定残高を対象とします。

ただし、場合によっては、特定の売上取引について確認状を送るといったこともありますので色々です。

なお、一番下の偶発債務というのは、将来の損失に繋がるような係争事件はありませんかー?というのを顧問弁護士に問い合わせる手続なので、他の勘定科目とは少し毛色が違います。

確認状を送る基準

で、これらの勘定科目が確認対象として一般的ではあるのですが、もちろん全ての勘定科目・全て残高に対して確認状を送るわけではありません。

そう、リスクアプローチですね。

金額の小さい先や、間違いが起こりにくそうな先には送らないという判断がなされます。

また財務諸表監査の考え方の基本は”試査”、すなわちサンプルテストですので、勘定残高の一部に対して確認状を送り、勘定残高全体に対して数理的な推定を行って、「一部分が大丈夫やったから全体も大丈夫やろ」という結論を得ます。

確認状の基準日

あと考えないといけないのは確認状を送る”時期”です。

3月決算の上場会社の監査の場合、5月の上旬には監査意見を表明することになりますので、それまでに監査を終えておかなければなりません。

しかし、例えば3月末日現在の売掛金残高に対して確認状を送ると、監査意見を表明する日までに確認の手続を終えられないケースが出てきてしまいます。

というのも、確認状は、設定した回答期日が守られる保証がなく、また確認金額と回答金額に差異があれば、その差異内容の把握にも日数を要し、クライアントの主張する金額が正しいのか正しくないのかの判断が遅れてしまって、監査意見の表明日までに差異調整を含めたすべての手続を終えられないケースが生じうるからです。(差異調整については後段の説明を参照のこと)

というわけで、勘定残高(特に売掛金や買掛金)によっては、本当は3月末日の残高について確認状を送りたいのですが、泣く泣く2月末日とか1月末日、あるいは12月末日の残高に対して確認状を送るという判断がなされることがよくあります。

(3月末日との差については、ロールフォワードという手続がとられるのですが、本記事では説明を割愛します)

逆に、売掛金・買掛金以外の勘定科目については、概ね3月末日を基準として確認状を送るケースが多いです。

なぜかというと、確認状を送る先が金融機関だったり生命保険会社だったりして、ちゃんと期日を守ってくれる可能性が高いということと、ほとんどの場合、帳簿の金額と回答金額に差異が出ないという理由によります。

確認状を送る実際の手筈

さて、それでは実際に確認状を送る手順をご紹介します。

ただし、上で例示したすべての勘定科目を一つ一つ説明するととんでもなく長くなってしまうので、代表として①預金・借入金と②売掛金の場合についてご説明します。

以下については本稿では説明を割愛します。
・預け在庫の確認状:立会の代わりとなるもので、金額そのものについて回答を得るものではないため
・退職給付債務:退職給付引当金を計算するもとになる数値を問い合わせるというもので、説明が専門的になりすぎるため
・偶発債務:金額そのものについて回答を得る手続ではないため

預金・借入金の確認手続の実務

預金・借入金についてはいわゆる”銀行確認状”というものを送ります。

通常、会社と銀行との取引と言った場合、普通預金だけとか、借入金だけとうケースはどちらかというと稀で、他にも色々な取引を行っていることが多いです。(特にメインバンクの場合)

ですので、各種預金残高や借入金残高、担保の状況、デリバティブの時価情報、取立依頼手形の残高などの金融機関取引について、銀行確認状という一枚の確認状でまとめて回答を要求するのが合理的なのです。

ちなみに銀行確認状はブランク確認状と言われるもので、取引ごとに空白がずらっと並んでいて、該当ある場合には内容を記載して返してね、というものです。

銀行確認状を送るにあたっては、最初に送る金融機関の数の分だけひな形をクライアントに渡して、金融機関の住所・宛先及び、口座の名義人を記載するとともに、届出印を押印してもらい、監査人に返却してもらいます。

この届出印が結構曲者で、届出印が違っていると銀行は確認状に回答してくれません。

ですから、銀行ごとに届出印が間違いなく押印してもらえるよう注意しておかなければなりません。

特に営業店などが保有する銀行口座で、届出印が本社から遠隔地にあるような場合には、届出印の押印のやり取りだけで数日かかってしまうので要注意です。

ここまでを通常3月の終わりごろから4月の1週目ぐらいまでに実施します。

無事クライアントから押印後のひな形を入手できたら、コントロールシートを作成し、早速返信用封筒と共に銀行に送りましょう。

※コントロールシートとは、どこにいつ何を送って、いつ返送されたのかということを管理する表です。

送ったらしばし待ちます。3月決算であれば、銀行にもよりますが、4月中旬、遅くても4月25日ぐらいには返送されてきます。

返送されてきたら、まず回答内容に形式的な不備がないかチェックです。

例えば回答に記載されている”回答者”が支店長などのしかるべき責任を持つ人物かどうかや、支店長印や支店の印が押印されているかどうか、回答事項に明らかな漏れがないかです。

もし形式上の不備がある場合には、改めて回答し直してもらわないといけないので、クライアントの担当者に断りを入れつつ、”再発送”つまり返ってきた確認状を銀行に送り返します。

形式上の不備が無いことの確認がとれたなら、コントロールシートに返送日を記載するとともに、返ってきた確認状をファイリングして終了です。

(確認状の回収という意味ではここで終了ですが、後々期末の残高監査の時に各勘定科目の担当者が返ってきた確認状に記載されている各種数値と会社が計上している残高とを突き合わせるという作業が待っています。)

売掛金の確認手続の実務

続いて売掛金の場合についてご説明します。

今回は、差異調整の手間がかかるクライアントで、1月末日を基準日として確認状を送付するという前提で説明します。

それではまず、会社が月次の売掛金残高を締めるところからスタートです。

売掛金の残高確認は数多く存在する得意先(時に数千を超えます)の中から、サンプルで必要な件数を抽出して確認状を送付することになります。

ですので、まずクライアントが1月末の売掛金残高を締め切って、売掛金の得意先別明細表を作成し終わるのを待たないといけません。

上場会社であれば、2月の1週目ごろにはおおむね出来上がっていると思います。

明細表を入手したらサンプル抽出です。

監査計画で定められたサンプルの抽出方法に従って、必要な件数のサンプルを抽出します。

そして、抽出したサンプルをクライアントの担当者に通知するとともに、”債権の残高確認状”のひな形を送付します。

債権の残高確認状は”クライアント側の残高が記載された”ひな形です。

つまり、クライアント側から見ると、売掛金1億円などと書いてあり、それに対して得意先側の買掛金額を記載して返送してもらうという形になっています。

このひな形に、得意先の送付先の住所、部署、クライアント側の責任者名を記載するとともに、責任者もしくは会社のハンコ(角印)を押印して監査人の元に返してもらいます。

あ、もちろん、クライアントが認識している売掛金の額も記載してもらいますよ。

クライアントから完成した確認状が返ってきたら早速送付します。

コントロールシートを作成した上で、返信用封筒を同封して得意先に送付し、返送を待ちましょう。(ここまででだいたい2月の12,3日頃になるケースが多いです。)

2月の12日に送ったとして、もちろんケースバイケースですが、2月20日頃からポロポロ返送されてきます。

しかし、売掛金の確認先は金融機関などの”ちゃんとした会社”ばかりではなく、まともに返送してくれないところもありますので、回収管理は銀行確認状よりも厳密に行う必要があります。

返送が遅れているところがあれば、早め早めにクライアントの担当者に連絡し、担当者から得意先に返送の督促をしてもらいましょう。

で、返送されてきた確認状をどうするかですが、まず銀行確認状と同じく形式上の不備が無いかをチェックします。

そして、不備があればやはり再発送ですし、不備がなければ今度は金額に差異があるか無いかのチェックです。

もしクライアントの売掛金計上額と、得意先の買掛金計上額に差異がなければめでたしめでたしです。
(※”差異が無いことの方が異常”というケースも稀にありますので、盲目的に差異が無くてOKとするのは危険ということはわかっておきましょう。)

差異があれば、クライアントの担当者にその旨を伝えて、差異の内容を詰めてもらいましょう。

実はここからが売掛金の確認手続のメインディッシュです。

売掛金の確認では、差異が生じることが普通にあります。

ですので、その差異が”生じていて問題の無い差異”なのか、”クライアント側の処理誤りから生じた差異”なのかを調査しなければなりません。

クライアント側では売掛金1億円と計上されているのに、得意先からの回答は8千万円でしたとなると、その差の2千万円について、”実証的に”、つまり証拠をもって問題が無いことを証明しないといけません。

例えば、クライアントの担当者に差異の原因を調べてもらい、2千万円の差異のうち1千万円は月末に出荷した分で、得意先での検収(仕入計上)が未了のものでした、その証拠に1月31日の出荷の資料がこちらです。ただし残りの1千万円は2月1日に出荷したものを間違えて1月の売上にしてしまっていましたごめんなさい、みたいな感じです。(この後者の1千万円は”虚偽表示”に該当します。)

この調整手続を差異が生じた得意先すべてで行います。これが超めんどくさくて、時間もかかるのです。

1月末を基準として送付しても、すべての差異調整を終えるのが3月終わりごろとかザラにあります。

これが、3月末基準で売掛金の確認状を送るのが困難な理由です。

というわけで、以上が売掛金の確認状送付の実務でした。

お勉強だけしていると、書面を送って返送してもらう、とだけしか書かれていなかったりしますが、実は非常に手間暇のかかる手続なのです。

以上、この記事を読んで少しでも確認状の実務が想像してもらえれば幸甚です。

スポンサーリンク
スポンサーリンク
京都市の税理士・公認会計士事務所 原田会計のご紹介
10年を超える監査の経験で培った会社の経営分析能力を活かし、親しみやすい人柄で経営者さんの悩みを総合バックアップします!
売上が伸びない、利益が残らない、税金のことで相談したい、内部管理体制をしっかりしたい、資金管理が心配、といった悩みをお持ちの経営者さんは是非一度、原田会計までご相談ください。
詳しいプロフィールやサービス内容、お問い合わせはHPへお越しください。
監査
ストレスフリーで生きていく

コメント