監査論のお勉強では実感できない、監査実務を説明するシリーズということで、
一年間の監査業務実務の流れを具体的に説明しております。
前回は2月の初旬、第3四半期レビューが終わったところまで書きました。
1年間の監査もいよいよ終盤を迎えます。
前回と前々回を読んでない方は、以下の記事を是非先にご覧下さい。
2月中旬~4月初旬 - 内部統制再び~詳細テスト前倒し
この時期は主に内部統制の締めくくりと期末実証手続の前倒しの時期です。
内部統制の締めくくり
内部統制については、9月〜12月に検証すると書きました。
なぜ2月になってまた内部統制の話が出てくるのか
これは内部統制検証の一連の流れなのです。
内部統制の検証には3つの段階があります。
- 内部統制の理解
- 内部統制の整備状況の検証
- 内部統制の運用状況の検証
内部統制の理解は、その名の通りです。
どんな内部統制があるのかなーということをヒアリングを中心に調べる段階です。
例えば、
みたいな社内の決まりがあるかどうかを確認する手続きです。
2つ目の整備状況の検証というのは、”理解”で把握した内部統制を、
本当に現場の人たちが適用しているかということを確かめる手続きです。
先程の売上の例で言うと、
みたいな感じです。
そして最後の”運用状況の検証”は当該内部統制が、
年間を通して漏れなく運用されているかということを確かめる手続きです。
整備状況との違いは、整備状況はとある一時点でのチェックであるのに対して、
運用状況は年間を通してチェックする、というところです。
9月〜12月の時点では、理解と整備状況、及び運用状況の一部(4月~12月)までは、
チェックができるんですけども、1月~3月の分はチェックできません。
なので、2~3月にかけて、もう一度を訪れ、1月以降の運用状況をチェックするのです。
なんか何回もおんなじことせなあかんのは非効率みたいやけどな。
そやねんけど、今の監査の仕組みやとこうせざるを得へんねん。
ちなみにこの3段階のどこかに問題点がある(内部統制不備)と結構面倒臭いことになります。
内部統制の不備の影響その1
面倒臭いことの代表として、詳細テストの範囲拡大があります。
詳細テストというのは、領収書とか検収書を見て数字があっているかを直接確かめる手続です。
例えば売上という勘定科目の計上額が正しいことを確かめることを考えたとすると、
のような感じです。
内部統制が効いてると判断できれば、この詳細テストの件数を減らすことができるのです。
逆に言えば、内部統制が〇の予定、つまり詳細テストの件数は少なくて済む予定だったのが、
想定外に不備有りとなると、詳細テストの件数を増やす必要が出てくるのです。
これは計画外の工数増になりますので、円滑な監査の妨げになります。
内部統制の不備の影響その2
もう1つは内部統制監査への影響です。
内部統制監査では
が監査意見の対象になります。
なので、内部統制の不備があると、仮に”数字が間違っていなくても、
“内部統制監査上の監査意見的にはOUT!になってしまいます。
つまり、内部統制監査を受けることが必要な会社(上場企業)の場合は、
そもそもの話として内部統制に不備があってもらっては困るわけです。
もし、期中に不備が見つかると、クライアントに
みたいな感じで直してもらいます。
長くなりましたが、以上が4月頭までにやっておかないといけない内部統制の関連事項でした。
監査計画と言いながら、ほとんどは予定調和なんやな
実質そうなってるわな。想定外の事が起こるとそらもう大変やで。
詳細テストの前倒し
詳細テストとは上でも書いた通り、誤りが無いことを証拠をもって確かめる手続です。
ということは、3月の段階であれば、4~2月までの取引については資料がすでにあるわけです。
なので、4月の業務の負担を減らす為に、前もってこの詳細テストをできる限り進めておきます。
という一連の手続ですね。
3月末~4月頭 - 立会と実査
多くの会社はこの時期に、実地棚卸の立会と実査を実施します。
詳細は以下の記事をご覧下さい。
4月~5月中旬 - 期末残高監査
さあいよいよ佳境です。
クライマックスです。
前年の6月から監査計画、内部統制、詳細テスト前倒しとやってきましたが、
最終的にはこの4月5月に実証手続を実施することで多くの勘定科目の数字を押さえにいきます。
まぁ要するに最後の最後は力技です。
普通の上場クライアントであればだいたい4月の2週目ぐらいから現場入りします。
そして、クライアントの決算作業と併走しながら、
単体数字、連結数字、開示書類のチェックと進めていきます。
早い会社だとゴールデンウィークに入るまでに監査意見の法人内審査までもっていきます。
ですが、多くのクライアントではゴールデンウィークも最後の大詰め作業に追われます。
※公認会計士のゴールデンウィークについては以下の記事をご参照ください。
監査法人もここ最近の働き方改革の流れに乗って残業時間の削減を推し進めてはいます。
しかしそうは言ってもこの時期ばかりは少なくとも10時ぐらいまでの残業はやはり必須です。
数年前までは余裕の午前様が当然という風潮でした。
そうしないと、今の監査の環境下では、目標日までに監査を終えることができません。
まじか。ゲー吐きそうやな。
冗談じゃなく、この時期に体調崩したら最悪やで。
本人もチームのメンバーも。
まぁ、監査法人の残業代や働き方についてはまたの機会に詳述します。
開示チェックについて
受験生や新人さんには想像しづらいところかなと思うのが、開示チェックです。
財務諸表監査の最終目的は、
ということです。
いくら伝票や証憑を見て、間違いなく経理処理されていることが確認できても、
最後の最後、開示書類が間違って作成されていればそれはOUTになります。
というわけで、監査の最終段階では、クライアントが作成した開示書類が、
経理処理した通りに正しく作成されているかということを細かくチェックします。
これが開示チェックといわれるものです。
上場会社の場合、5月の頭に開示チェックをしますが、
この時のチェックする対象となる開示書類は”会社法計算書類“です。
つまり、5月の頭の段階で、会社法が作成を求める計算書類を確定させるわけです。
そして、後述しますが、5月の後半から6月の中旬にかけて、
もう一つの開示書類である有価証券報告書のチェックをします。
こちらは、金融商品取引法が要請する開示書類です。
5月中旬~5月後半 - 会社法監査
上場会社の流れからは話がそれますが、だいたいこの時期には会社法の残高監査が走ります。
何の事かというと、非上場会社など、上場会社以外の期末監査のことです。
上場会社は、3月決算の場合、5月15日までに証券取引所に”短信“という、
決算速報みたいなのを提出する必要があるので、
それに引きずられて実質的に5月頭までに監査を終わらないといけません。
一方で、非上場会社には短信の提出義務がありませんので、
急ぎの上場会社を終わらせてから、5月の中旬以降に非上場会社の期末監査を実施します。
5月後半~6月中旬 - 有価証券報告書のチェック
上でも述べた通り、開示書類は2種類あります。
会社法計算書類で開示される内容と、有価証券報告書で開示される内容には差があります。
なので、この時期に改めてクライアントに往査し、開示チェックを行います。
財務数値自体は5月頭までに固まっているので、開示書類のチェックだけになるわけですね。
この有価証券報告書が6月下旬の株主総会の後に公表されて一年の監査は終わりとなります。
そして同時に翌年度の監査が始まり、1ヶ月もしないうちに第一四半期レビューに突入します。
長かったけどあっという間やったな。
忙しいと時間のたつのも早いしな。
以上、3回に分けてお送りした、一年間の監査の流れシリーズでした。
この記事を読んで、多少なりとも一年間のスケジュールが具体的に想像してもらえたら幸甚です。
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