トヨタが持っているお金は4兆6千億円、借金の額は9兆6千億円。これだけ見るとトヨタは倒産するともしないとも言えません。では、どこを見れば大丈夫か大丈夫でないかがわかるのでしょうか。
資金残高は増えて減ってを繰り返す
まず前提知識として、会社の資金の動きというのを理解しておかなければなりません。
下の画像をご覧ください。
これは、会社の会社の資金の動きを単純図式化したものです。会社の資金は一定のサイクルで増えたり減ったりします。例えば1ヶ月の中での経済活動でいうと、売掛金の回収期日付近では会社の資金は増えていきます。一方で、買掛金や給料の支払い日には資金は大きく減少します。
何度も言いますが、会社はお金が無くなった時に倒産します。それをこのグラフに当てはめて考えると、グラフの一番下のラインが”最もお金が少ない点”であると言えます。
給料の支払い日に支払うべきお金が従業員に払えない、仕入先にお金が払えない、支払手形の期日に預金残高が足りないといった状況になってしまうと、この一番下のラインがマイナス=ゲームオーバーとなります。
ということは、逆に言えば、毎月の回収-支払いのサイクルの中で、一番お金が少なくなる時期にもいくらかのお金が残るように管理しておけば会社は倒産することはない、となります。
資金が足りているかどうかは厳密には外部からはわからない
さて、トヨタの2019年3月31日時点の4兆6千億円という資金残高はこのグラフでいうと、どこにあたるでしょう?
もしかしたら、あらかたの支払いを終えた直後かもしれませんし、直前かもしれません。なので4兆6千億円がグラフのどこにあたるかということは外からは厳密にはわかりません。
厳密に知ろうと思えば、売掛金や買掛金の回収期日に加えて、借入金の返済日といった会社内部の情報を入手しなければなりません。
しかし会社外部からでも、資金・借金の残高とともに売掛金や買掛金をはじめとした、資金サイクルに影響を与える項目をも同時に見ることで、”ある程度”の精度で、会社の資金にどのくらい余裕があるかということを”ある程度”知ることができます。これが経営分析でいうところの安全性分析です。
安全性分析でなんとなく〇か×をつけることは可能です
安全性分析でよく使われる指標としては”流動比率”と”当座比率”というものがあります。
まず流動比率です。先に計算式をご紹介します。
流動資産とは、現金や預金、売掛金、受取手形、棚卸資産(在庫)、未収入金などの、一年以内に現金化されることが想定される資産の集まりです。
一方、流動負債とは、買掛金、支払手形、未払金、短期借入金、長期借入金の内一年以内に返済予定のものなど、一年以内に支払期日が到来する負債の集まりです。
そして、それらから導き出される流動比率は
「”一年以内に払わなければいけない負債”を”一年以内に現金化される資産”で賄えているか否か」ということを示します。
例えば現金が100億円、売掛金が100億円、在庫が100億円、買掛金が400億円という状況であれば、流動比率は
と計算され、ちょっとお金足りないかな、みたいな評価になります。
ちなみにトヨタはどうかというと、流動資産が18兆8千億円、流動負債が18兆2千億円なので、流動比率は
と計算され、とりあえず計算上は一年以内の支払いはまかなえそうです。
しかし、流動比率はあくまで一年以内のトータルでみた資金の余裕度ですので、超短期的に見た時、例えば、借入金の返済期日と給料日と大口の仕入れ先への支払い日が重なった場合などに、本当に資金が足りるかどうかはこの指標からはわかりません。
では、ということで、もう一つ安全性を測る指標である、”当座比率”があります。計算式は以下の通りです。
当座資産とは、流動資産の内、より短期的に換金可能な資産のことを言います。具体的には現金、預金、売掛金、売買目的で保有している有価証券などです。流動負債は流動比率の時と同じです。
つまり、当座比率は「”一年以内に払わなければいけない負債”を”すぐにでも換金可能な資産”で賄えているか否か」を示します。
先ほどの例で言えば、現金が100億円、売掛金が100億円、買掛金が400億円という状況で、当座比率は
と計算されます。
同様にトヨタの場合は、当座資産が8兆2千億円で、流動負債は変わらず18兆2千億円なので、当座比率
と計算されます。
なお、当座比率が何%あればいいかということについて、一般的には80%と言ったり、100%と言ったりします。ちなみに流動比率は150%~200%です。
え?まじで?っていう感じですよね。目安に全然届いてない・・・
この事実をどう解するべきか。
- 計算に入れていない資産の中に、すぐに換金可能な資産が多額にある
- 借入金の大部分が借り換え可能(当面返さなくて大丈夫)
- マジでヤバイ。倒産間近。
といったところでしょうか。たぶん1と2の両方が当てはまるのだと思います。
いずれにせよ、外部からの分析には限界があります。個々の起業には固有の事情があるから、絶対値で何%といったところで、それが〇なのか×なのかの判断がつかないからです。
なので、外部からの分析で有用なのは、他社と比較することです。特に同業他社を何社か用意して、同じ指標を並べてみて、その中で指標が良い悪いと論ずることはできます。
例えば日産自動車の流動比率は150%、当座比率は23%、
ホンダ(本田技研工業)の流動比率は123%、当座比率は55%です。
似たり寄ったりですね。日産の当座比率の低さには少し驚きましたが、まぁ3社とも同じような傾向と言ってもいいでしょう。と原田は結論付けました。異論は受け付けません(笑)
というわけで、まとめです。
- お金が無くなった時に会社は倒産する
- 貸借対照表を見ればなんとなーく安全度は分析できる
- ただし、本当に大丈夫かどうかは内部の人でないとわからない
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