近年の新人公認会計士達について心配すること-頭を振り絞って基本の調書を作成せよ!-

会計
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新人には時間が必要です。どんな時間が必要かと言うと、自分の頭でしっかり考え、自分なりの答えを出す訓練をするための時間です。

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監査法人に入った新人のお仕事

原田は11年間監査法人にいたわけですが、10年ひと昔と言いますか、たった10年ちょっとの間に、監査のやり方や、監査スタッフ達の働き方は随分と変わりました。

毎年12月頃、監査法人には公認会計士試験をパスした新人会計士の卵達(注)が入ってきます。そして、監査ツールの使い方や、EXCEL、Wordの使い方、基本的なビジネスマナーや、監査現場の疑似体験などから構成される、2ヶ月弱の新人研修を経て、監査の現場に配属されます。

注)公認会計士試験をパスした人は、2年間の実務経験と3年間の実務補修(座学)を修了した後、修了考査という合格率55%の試験に通って初めて公認会計士をの資格を名乗ることができるようになります。

新人たちには割り当てられる仕事は、以下のようないわゆる、難易度の低い仕事です。

  • 実査
    お金や株券を実際に数えて、残高が合っていることを確かめる手続き
  • 立会
    会社の棚卸を見に行き、棚卸作業が適切に行われているか、在庫の額が適正かどうかを確かめる手続き
  • 確認
    銀行や証券会社に、預金残高や借入金残高、預けている有価証券の残高などなどを書面で教えてもらう手続き
  • 先輩の横についてヒアリングの練習
  • 現金・借入金などのいわゆる”財務科目”に対する期末残高の監査手続

新人の担当する仕事は確かに難易度的には高くないのかもしれません。

しかし、これらの割り当ては新人が担当するからといって、決して軽視されるべきものばかりではなく、実査・立会・確認などはむしろ監査論的には、非常に重要度が高いとされるエリアなのです。

そして、これらの仕事を通して、新人会計士達はクライアントである会社の理解を深め、ヒアリングのコツを学び、調書作りのイロハを身につけるのです。

自分の頭で考え抜いたことだけが身になるのだ

しかし、数年前から、この新人にとっての学びの環境が脅かされているような気がしてなりません。

どんな業界、どんな仕事でもそうですが、新人にとっては与えられる仕事全てが初めてのことばかりです。

もちろん、どのようなこと実施しなければならないのかについて、資格試験の勉強や研修を通して知識としてはある程度わかっています。

しかし、経験がないので、業務の具体的なプロセスのイメージはありません。

監査法人の場合であれば、あるのはせいぜい、1、2年上の先輩が作った去年の調書です。

それらも、結論は書かれていても、先輩がどのように取り組んで、どこでつまずいて、どこで時間を食われたか、どのようなことを注意すべきだったか、といった”仕事の過程”は、ほとんどの場合書いてありません。

そのような条件下で、四苦八苦、試行錯誤しながら、新人なりに調書を仕上げるのです。

もちろん、要らぬ苦労はしないに越したことはありません。原田は根性至上主義者でもなんでもありませんので、できれば楽に楽に仕事は進めたいものです。

しかし、初めて経験するわからないことにぶつかった時に、答えを横からスッと用意されるのと、自分の頭で必死で考え抜いて一定の答えを導き出すのと、どちらが血肉になって残るかは明白でしょう。

ちなみに、そんな新人が毎年ぶつかるようなこと、マニュアルに書いてないのか、というつっこみもあるでしょうが、会社の誰に何を聞けばいいのか、どんな資料をいつ誰から入手すればいいのかといったような、クライアントによって微妙に差のある、極めて実務的なことまでマニュアルに書いていられないのです。

仮に、監査チームが「現金勘定を担当する新人のための留意点」のような形で新人のための細かいマニュアルを用意していたとしても、それとて限界がありますし、それを作るための手間や時間も膨大です。

このようなことを踏まえると、新人会計士が”実務”を身に着けるにはやはり、どんな時に、どんな資料を入手し、誰にどのように聞き、どのように調書に落とし込むかということを試行錯誤する過程を経験する”時間”が必要なのです。

新人に時間を与えないことは、数年後に禍根を残す

ところが、近年の新人会計士達は業界全体で、極めて限られた時間で、それなりの品質の調書を仕上げることを求められています。

監査業界にも、働き方改革や、効率化といった名目で監査時間の短縮が強く求められています。

それは新人が担当するような業務であっても例外ではなく、とにかく十分な時間が与えられていないように感じます。

1年目や2年目の新人職員達は、公認会計士になるための資格試験をパスしているので、個人差はあれども、監査・会計に関する基本的な知識に大差はありません。

ただ、実務経験はないのです。調書作りの首尾がわかっていないのです。というより知らないのです。

そのような新人達から考える時間を奪うとどうなるか。

悩み、考える時間が無いために、例えば前期の調書の数字を今年の数字に入れ替えただけの、中身の無い調書が出来上がります。

そのような調書でも、監査チームとして体裁が整っていて間違ったことが書いてなければOKが出てしまいます。

しかし、残念ながらそれを作った(と言えるかどうか微妙ですが)本人に調書作成のイロハや”思考の過程”は残りません。

このような環境で1年目、2年目を過ごした新人が数年後、監査チームの中核を担うようになるとどうなるのかが非常に心配です。

なぜなら、少し上の立場になると否応なしに、頭をフル回転させて必要な情報を集め、論理構成し、突込みどころのない調書をイチから作るという役割を担わなければならないからです。

こういう作業は突然やれと言われても無理です。新人のうちから段階を追って訓練することが絶対に必要です。

おわりに

監査法人が、一般の会社並みの働き方改革を求められているのは理解できます。メンタルヘルスの問題もありますし、長時間労働自体は避けるべきです。

だからと言って、単に職員個々人の業務時間を減らせば解決する問題ではありません。

新人と言えども給料をもらっているのだから、限られた時間の中で、そこそこの内容の調書を仕上げるのがプロフェッショナルだと主張する人もいます。

ですが、それは綺麗事です。

監査法人には、一定の品質以上の監査結果を提供する社会的責任がありますが、その責任を果たすためには、新人会計士達を若いうちから十分な時間を与えて”頭の体操”を経験させなければなりません。

監査法人側がしなければならないことは、業界全体としてアメリカの1/3の水準とされる監査報酬を少しでも上げ、長時間労働にならない程度に多くの若い会計士を雇い、彼ら彼女らにそれぞれ十分な時間を与えて頭の訓練をさせることだと原田は考えるのです。

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