利益の増減と資金の増減は一致しません。では、経営者は結局のところ、どのようにして”儲かったのか、それとも損をしたのか”を判定すればいいのでしょうか。
経営者はどこの数字を見て、儲かった儲かってないを判断すればいいのか
赤字でも倒産しない、黒字でも倒産する、損益取引と資金取引はちゃんと分ける、といったことを先日来ご説明しています。
いずれも、損益計算書で算出される利益の額は、必ずしも、お金の増減を表すものではないということを言っています。
例えば損益計算書の項目には、減価償却費(*1)や引当金(*2)といった、資金の動きを伴わない損益があります。
また、例えば、借入金の返済取引は、お金は減るけども、損益には影響しないというものもあります。
では、結局のところ、何を指標に経営をすればいいのかという疑問が出てくることになります。
(*1)減価償却費:損益計算を平準化するために、過去に行った投資を一度に費用として処理するのではなく、一定の方法で分割して、数年にわたって費用とする手続きのこと。
例えば、製品の製造に使う機械を100万円で購入し、10年間使用すると見込む場合、お金は購入時に一括で支払うが、損益計算書上は、10万円ずつ10年間にわたって費用処理する。
(*2)引当金:将来に支払いが生じると見込まれる費用を、前倒しで損益計算書上、費用処理しておくもの。
詳細は『賞与を月別に平準化するってどういうこと?』をご参照ください。
利益だけ見てもだめ、資金だけ見てもだめ
以上のことを踏まえると、損益計算書だけを見て、
「今年は3,000万円の純利益が出てるのか、来年は役員報酬倍にするか」
などと判断することは、企業経営上、極めて危険な見方と言わざるを得ません。
利益は出ていても、手元に資金が全然無いケースがあり得るからですね。
それなら、現預金がどれくらい増減したかを見てみよう、ということで、
「現預金残高は前期末が2,000万円で、当期末が2,500万円だ。よしよし、500万円増えてるわ、フヒヒヒ。」
これでいいと言えるでしょうか?
いいえ、もちろん駄目です。
資金の増減が損益の増減”だけから”構成されていればいいですが、資金の増減には非損益取引の結果がたくさん含まれています。
それこそ、借入金の出入りであるとか、配当の支払いとか、固定資産の購入売却取引とか、有価証券の売買とかです。
もっというと、売掛金の回収や、買掛金の支払いといった通常の売買取引にくっついてくる入出金も損益取引ではなくて、資金取引です。
じゃあ答えは一つです。
利益と資金両方が増えていないとだめ
利益が増えて、資金が減っているのは、黒字倒産の可能性。
利益が減って、資金が増えているのは、近い将来の大きな損失(キャッシュアウト)の前触れ、成長性の減衰、過剰な資金調達とそれに伴う利子負担増、などの可能性が考えられます。
企業経営上、「良し」と言えるのは、そのどちらでもない、利益と資金の両方が増えている時です。
利益と資金の両方が増えている時というのは以下のような状態です
- モノがたくさん売れる
- 売れた分のお金をちゃんと回収する
- 銀行や株主に利息や配当という形で還元する
- 将来のために投資をする
- 1~4すべてを考慮した結果、去年と比べて資金が増えている
1は損益取引の概念です。一方2~4は資金取引の概念です。
つまり、本当に儲かったか儲かってないかを判別するには、損益取引と資金取引の両方を考慮しないといけないのです。
では、経営者さんは具体的に、どこをどのように見れば、自分の会社が1~5を正常に回しているか否かがわかるのでしょうか。
この、”本当に儲かったか儲かってないか”の判別をするにあたって助けになるツールがキャッシュ・フロー計算書です。
次回以降、キャッシュ・フロー計算書についてご説明してまいります。
コメント