【作りすぎ注意】その原価率改善、大丈夫ですか?【製造現場の暴走】

ビジネス
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ある月の試算表を眺めていたら、覚えがないのに劇的に原価率が改善していた!

そんなケースに出くわしたとき、

「あれ?値上げをしたわけでもないんだがな。そうか、製造現場がコストダウンをがんばっているんだな。」

こんな結論で済ませて大丈夫ですか?

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経営者の目標の一つは付加価値の極大化

経営者の短期的な目標の一つは売上から売上原価を引いて計算される売上総利益、

すなわち粗利を極大化することです。

粗利は企業にとっての付加価値です。

そしてこの付加価値から人件費や資本コスト(支払利息・配当金)、

将来の成長に欠かせない設備投資といった支出がなされるからです。

付加価値が産み出せなければ、何もできません。

極端な例えですが、鉄板100kgを10万円で買ってきて、

それをそのまま10万円で誰かに売れば、粗利は0円です。

営業マンの給料も払えないですし、借入金の利息も払えないません。

給料を払い、借入金の利息を払いたければ、その鉄板を何とかして10万円より安くで買う、

もしくは高く売ることで、原価率を下げ、粗利すなわち付加価値を創出しなければなりません。

原価率を下げる方法は3通り

  1. より多く売り=売上を上げる
  2. より高く売り=売上を上げる
  3. より安く作る=原価を下げる

原価率を下げ、粗利を極大化するということは、↑のどれかを実現することに他なりません。

より多く売ることと、より高く売ることは、基本的に歓迎すべきことです。

安易な安売りはもちろん忌避すべきですよ!

しかし、より安く作るということには注意が必要です。

製造業の現場では原価低減すなわちコストダウンのための活動が日々行われています。

例えばトヨタの原価改善などは、”乾いた雑巾を絞る”というふうに比喩されるほどです。

極めてストイックな原価低減のための活動で、トヨタの高利益体質を支えています。

原価低減活動の結果、原価率が下がり粗利が増えるのは企業にとっては非常に好ましいことです。

従業員のみなさんにとっては血反吐の出る思いだとは思いますが。

たくさん作れば原価は下がる

このような原価低減活動をがんばった記憶もないのに、原価率が下がっているという、

冒頭のようなケースがあるとしたら、それはどういう状況を意味するのでしょうか。

 

製造業において、生産している製品の1個あたり原価はどのようにして計算できるでしょうか。

先に答えを言ってしまいます。

総製造費用、つまり一定期間に要した製造のための費用すべてを数量で割って算出します。

例えば、1か月間で、製品30個を作るために材料費1,000円、人件費1,400円、諸経費1,200円を要したのならば、製品1個あたりの原価は3,600円÷30個=120円です。

では、またある月に1か月間で60個の製品を作るとしたらどうなると思いますか?

数量が倍で、材料費2,000円、人件費2,800円、諸経費2,400円で、7,200円÷60個で変わらず120円。

とはなりません。

あくまで一般的な話ではありますが、ざっくり区分すると、材料費は変動費です。

人件費は残業代などの変動部分を除いた大部分が固定費です。

諸経費は変動費と固定費が入り混じっていますが、機械などの減価償却費は固定費です。

変動費と固定費の話については、以下の過去記事を参照ください。

変動費と固定費を分けてみる - ゼロからの経営分析入門(その1)
費用は変動費と固定費にわけて管理しましょう。

仮に上の例で、人件費はすべて固定費、諸経費のうち1/3が減価償却費だとします。

そうすると、数量が倍になるならば、各費用は以下のようになります。

材料費は2,000円、人件費は1,400円、諸経費については、1,200円のうち400円が固定費なので、400円+800円×2=2,000円です。

従って、総製造費用は2,000円+1,400円+2,000円=5,400円となります。

製品1個あたりの原価はなんと5,400円÷60個=90円まで下がります。

これをいわゆるスケールメリットと言います。

固定費は数量に関係なく一定であるため、大量生産すると1個あたりの原価が下がるのです。

意味のない原価率低下のからくりに要注意!

さてここで、この企業の販売数量と製造数量との関係を見てみることにしましょう。

文字だとわかりにくいので表にしてみました。

左が初期状態です。製造30個、販売30個で原価率は80%。

で、60個作って、60個売れたらどうでしょうか。

ウハウハですね。

原価率は60%にまで下がり、粗利は4倍の3,600円です。

では、60個作って、30個しか売れなかったら?

なんと、初期状態と同じ30個しか売れていないのに、原価率は60%にまで下がります。

そして粗利額は1,800円と初期状態の倍になっています!

たくさん作っただけです。

原価低減活動なんか何もしていないのに、原価率が改善してしまっています。

なぜこんなことが起こるか。

答えは、売れなかった30個(2,700円分)は在庫として貸借対照表に残ってしまっているのです。

確かに損益計算書だけを見ると、すごく業績が上がったように見えます。

しかしこれはまやかしです。

この貸借対照表に残った30個が来月売り切れるならそれでもいいです。

しかし、来月の製造量が0個になっていてはなんの意味もありません。

逆にこの在庫が不良在庫と化したら、ゆくゆくは安値で叩き売るか、廃棄するしかありません。

つまり、2,700円の損が出るわけです。

以上が、原価率だけを見て一喜一憂してはいけない理由です。

まとめ

製造部門は作ることだけに集中し、営業部門は売ることだけに集中してしまいがちです。

高度経済成長期のような時代であればそれでもかまわないかもしれません。

作ったら作っただけ売れるという時代ですから。

しかし今の時代、よっぽど製品に訴求力があって供給不足となっているのでないならば、作れるだけ作るというのは、損失を垂れ流しているのと同じです。

作るという行為と、売るという行為を一連の流れとして考える。

製造現場と営業現場が連携して、売れる分だけ作るという考え方を持つことが必要なのです。

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